
まだ人間に知られていない場所としてよく挙げられるのが宇宙空間と、深海です。深海には奇妙な姿をしている生物が数多く生息しています。
そんな深海の奇妙な生物のひとつがヌタウナギです。細長い見た目はウナギに似ていますが、どこかグロテスクです。
今回はそんなヌタウナギについてご紹介していきたいと思います。
気持ち悪い見た目だけで美味な韓国料理のヌタウナギ

冒頭でもご紹介した通りグロテスクな見た目をしている奇妙なヌタウナギですが、実は韓国料理としては専門店があるほど人気の食材なのです。韓国では「コムジャンオ」と呼ばれており、釜山のキジャン地域が有名です。ヌタウナギっはそのグロテスクな見た目から下賤な食材とみなされており、君主へ献上されることもありませんでした。
しかし、庶民にとっては貴重なたんぱく源として珍重されていました。
ヌタウナギの代表的な調理方はコチュジャン炒めです。内臓を抜いたぶつ切りのヌタウナギをニンニクなどの野菜とコチュジャン、ごま油で炒めるシンプルな料理です。魚やウナギというよりはタコのような強い弾力のある歯ごたえで独特のクセもあり、辛めの味付けは韓国焼酎にとても会うのだそうです。
ヌタウナギはウナギでも魚でもない生きた化石

冒頭でも紹介した通りウナギによく似ている細長いフォルムからその名がつけられたのですが、実際にはウナギではありません。それどころか厳密に分類するとヌタウナギは魚でもなく、便宜上魚類の仲間に分類されている場合もありますが現在でも意見が分かれているという状況なのだそうです。
コイやマグロなど現生する魚のほとんどはカルシウムなど石灰質からなる硬い骨を持つ硬骨魚類とされています。一方でサメやエイなどは弾力性のある軟骨成分の骨からなる軟骨魚類に分類されています。軟骨魚類の登場は古く、恐竜の時代よりもはるかに古い4億年ほど前から地球上に存在する原始的生物でもあります。
実はヌタウナギはこの軟骨魚類の仲間よりも原始的な構造を持つ無顎類や円口類と呼ばれる生物に分類されています。
体のつくりも通常の魚類とは大きく異なり胸びれ、背びれ、ウロコもなく体は粘液でおおわれています。
ヌタウナギの構造と実は鋭い歯

ヌタウナギの体の構造をもう少し詳しく見てみると体長はおおむね60センチほど。上述のとおりウロコ、背びれ、胸びれはなく体には口と尾びれのみが確認できます。
無顎類と呼ばれる通りヌタウナギの口に歯顎が存在せず、口の中にある2本の突き出た舌の上に鋭い歯が2重に存在しています。
ただし、ヌタウナギはこの歯をエサを食べることに利用はせず、エサである死んだ魚から体液を皮膚の表面に空いている小さな穴から吸い取ります。
また、体の表面には目がついていません。かつては目が存在していたそうですが退化してしまい現在の姿では皮下に埋もれています。
アメリカの事故でも注目されたヌタウナギの粘液

ヌタウナギの最大の特徴は名前にもある通りヌタのような粘液を出すことではないでしょうか。
ヌタとは沼田(ぬた)の意味でぬるぬるした様子が泥のおおい沼田を連想されることからこの名がつけられたようです。日本の郷土料理のひとつ野菜などを酢味噌であえた「ぬたなます」も味噌がどろりとした沼田を連想することからヌタと呼ばれています。
ヌタウナギは外敵に襲われたなどの刺激により腹部の粘液腺から微細な繊維を多く含んだ粘液を出します。粘液は周囲の海水を吸って膨張し、大量の粘液を発生させたように見えるのです。
この粘液が原因でアメリカで前代未聞のトラブルを引き起こしたこともあります。
2017年にアメリカ・オレゴン州でアジアにヌタウナギを輸出するためのトラックが横転し、水槽で輸送されていたヌタウナギがハイウェイに投げ出されました。
この事故によりヌタウナギから発生された粘液が道路と周辺の車を覆い交通渋滞を引き起こすことになりました。
結局オレゴン州はこの粘液を除去するためにブルドーザーをも用いたほどだったそうです。
古代からほとんど姿を変えていない「生きた化石」であるヌタウナギ。魚類とはっきり言えないほど原始的な生き物ですが、その粘液は現代人を混乱させるポテンシャルを十分に秘めています。
現在、この粘液は化粧品などへの利用も検討されており、このグロテスクな生き物に注目が集まっているようです。